こんにちは。月に1度のシリーズ「箱根路を駆けた名選手たち」です。今回、紹介する選手は今西駿介（東洋大卒）です。
箱根駅伝には、“記録”に残る選手と“記憶”に残る選手がいます。
今西はどちらかというと記憶に残る選手かもしれません
「人間じゃねー」というセリフは当時箱根駅伝を見ていたファンなら、鮮明に覚えていることでしょう。
今西の周りには、人間離れした活躍を見せた選手が2人いました。
一人が箱根駅伝6区で戦った小野田勇次（青山学院大）、もう一人がチームメイトの相澤晃（東洋大）です。
彼らと一緒にいたため、そこまで目立っていないかもしれませんが、今西の実績を改めて見てみたら、8度走った三大駅伝のうち、7度区間5位以内で走るという素晴らしい成績を残しています。
神と闘いながら、人間界最強クラスの活躍を見せた今西。
そのユニークな箱根駅伝を振り返ります。
〇高校時代
宮崎県の名門、小林高校出身の今西。当時からロードに強く、全国高校駅伝では3年連続で出走。特に2年次は準エース区間の3区で22人抜きというとんでもないビッグパフォーマンスを披露しています。
〇大学時代
■1年次
小林高校卒業後は東洋大に進んだ今西。高校時代の活躍もあって、同期の中では相澤と並んで大きく期待されていました。
しかし、1年目は三大駅伝への出場は無し。さすがに強豪校で1年目からレギュラーを獲るのは簡単なことではありませんでした。
■2年次
それでも2年目にはしっかりレギュラーを掴んだ今西。出雲駅伝5区で三大駅伝デビューを果たします。
襷を受けたのは首位と30秒差の3位。高校時代に見せた駅伝男ぶりを発揮すれば、首位奪取もあり得るのでは。と期待されていましたが、結果はまさかの区間10位。
優勝の芽が潰える悔しい走りとなりました。
それでも、箱根駅伝では期待を込めて山下りの6区に起用されます。
しかもチームは往路優勝を果たし、首位で走り出すという大役を担うことに。
しかし、いいことだけではありません。2位から追いかけてくるのは山下りのスペシャリストの小野田勇次（青山学院大）。
今西も初めての6区にしては順調すぎるくらい好タイムで駆け下りますが、なにせ相手が悪かった。
途中で首位を明け渡すと、逆に大差をつけられることに。
この小野田の圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにした今西は、倒れこみながら「人間じゃねえ。。。」とつぶやくしかありませんでした。
■3年次
2年次の悔しい経験を経て、たくましく成長した今西。出雲では前年と同じ5区を任されると、今度は区間賞を獲得します。
今西の快走で首位青山学院大にジリジリ離されていく展開が一変。逆転優勝も見えるくらいのゲームチェンジぶりでした。
出雲での快走で信頼を勝ち取った今西。全日本でも序盤のエース区間3区を任されます。
今度は14位と初めて優勝争いから遠く離れた位置でタスキを受けますが、区間4位で6人抜きの快進撃。
チームを上位争いの流れに押し戻してくれました。
出雲、全日本と相次ぐ快走で期待が高まって迎えた2度目の箱根6区。
前年と同じく首位で走り出すことになりました。
今回は後ろから小野田ではなく、中島（東海大）が追いかけてくる展開。中島もれっきとした山下りのスペシャリストです。
でも、今回は後続の追撃を許しませんでした。
前回からタイムを1分以上縮め、首位を堅くキープ。
区間賞は小野田が獲得しましたが、今西は15秒差の区間3位。
人間じゃねえ。。と言うしかなかった相手との差を、1年間で15秒にまで詰めたのです。
■4年次
4年目になると、主力として活躍してきた西山の不調もあって、今西は相澤に続くセカンドエースと認識されるようになっていきました。
出雲では3年連続で5区に登場。
混沌の優勝争いの中で襷を受けると、区間2位の好走で首位に肉薄。
やはり追いかける展開で強いところを見せました。
全日本では3区相澤がものすごい走りで首位を奪った後の4区に登場。区間2位の安定した走りで首位をキープ。
逃げる展開でも強いところを見せました。
いつの間にか、追いかける展開でも逃げる展開でも強い選手へと成長していた今西。
最後の箱根はこれまでの集大成として3度目の6区に挑みました。
しかし、今回の箱根は往路で大苦戦。
首位で走り出した過去2回とは打って変わって11位からのスタートになりました。
それでも、今西は過去最高の走りを見せます。
区間賞こそ、アンタッチャブルな走りを見せた館澤（東海大）に譲りましたが、今西も4人抜きの区間2位。タイムは57分34秒と、小野田が持っていた区間記録を更新したのです。
チームも今西の快走のおかげでシード落ちのピンチを回避。
人間じゃねえ。。とつぶやくしかなかった相手に対して、最後にはタイムで上回るところまで成長した今西。
頼りになる選手でした。
〇社会人時代
東洋大卒業後は九州の実力派チーム、トヨタ自動車九州に入部しました。エース候補として期待されていましたが、ここまでニューイヤー駅伝では出番なし。
と思っていたら、今年の9月からSGHに移籍することが発表されました。
SGHも実業団チームの中で独特の存在感を発揮しているチームです。
思えば、大学でも頼もしい活躍を見せたのは3年目からでした。
新しい環境の中で、実業団3年目を迎えた今西が再び強さを見せてくれるのか。活躍を楽しみに待ちたいです。
〇最後に
当時の東洋大は相澤が最強すぎたため、注目が集まっていましたが、こうして振り返ってみると、今西も相当強い選手であったことがわかります。
彼のように追いかける展開、逃げる展開どちらでも確実に上位で走ってくれる選手がいることがどれほどありがたいことか。
それでも、今西も最初から順風満帆だったわけではありません。
一度は神のような走りを見せる相手に絶望しました。それでも努力を続けて彼に肉薄し、最後は（タイムの上では）超えたのです。
今西のようなユニークで熱く、頼もしい選手が再び現れるのを楽しみにしています。
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