こんにちは。今回は「そんなに細かすぎない箱根駅伝ガイド~復路編~」です。今回は箱根駅伝の復路6区から10区について、細かすぎない範囲で特徴や見どころを紹介します。
~6区~
コース:箱根 芦ノ湖→小田原中継所
距離:20.8km
復路のスタート区間となる6区、かなり特殊な区間です。
まずスタートに個性があります。時差スタートといってまず往路優勝を果たしたチームが8時にスタートします。その後、往路終了時のタイム差に従って各チームが順番にスタートしていきます。往路終了時に先頭から10分以上の差がついてしまったチームは8時10分に一斉にスタートします。5区に“山の神”が現れる年は一斉スタートになるチームも多く、10チーム以上が同時に走り出すこともあります。ちなみに6区は決してコース幅が広くないので一斉スタート組は序盤走りづらくなります。
また、6区はコースも特徴的です。5区の裏返し区間ということで序盤とラスト3km以外はひたすら山を下り続けます。ここまで下り坂を走り続けるロードレースは世界を見渡しても他に類を見ないのではないでしょうか。
6区は復路のスタート区間として流れのうえでも重要な区間です。往路で健闘したチームでもこの区間で遅れて一斉スタート組に巻き込まれると、一気に見た目順位が後ろの方に下がってしまい、後続の選手も本来の走りができなくなるということが度々起きます。
6区に起用されることの多い選手は以下のとおりです。
①6区経験者
→5区と同じく適性と経験値がモノを言う区間なので前年6区を走った選手が続投するパターンが多いです。今回で言うと、前回好走している島崎(國學院大3年)や前田(明治大4年)、若林(中央大2年)に期待がかかります。
②5区経験者
→上れる選手は下れる、という理論があります。両区間とも、上ったり下ったりするのは一緒です。
前回区間賞を獲得した館澤(東海大)も1年次にアップダウンへの強さを見込まれて山上りの5区を走った経験がありました。
③純スピードランナー
→1500mや5000mで強さを見せる選手が6区に起用されることはよくあります。前回は1500mで日本選手権を制したこともある館澤(東海大)が故障明けのぶっつけ本番で6区に挑戦しました。(館澤はいろんな経験をしていますね(笑))
序盤の上りから攻めに攻めた走りはまさに最高級のスピードランナーだからこそのものでしたね。
6区の見どころは「最後の3km」です。6区はコースの大半が下り坂でスピードに乗って走る区間ですが、最後の3kmは平地が待ち受けています。この3kmは下りで脚を酷使してきた選手には非常に厳しくつらい距離となります。ここでどれだけ粘れるかで1分近くタイムが変わります。ほとんどの選手はもがきながら1秒を削り出す魂の走りを魅せてくれます。ぜひラスト3kmにも注目して6区を見てみてください。
~7区~
コース:小田原中継所→平塚中継所
距離:21.3km
序盤に小刻みなアップダウンがある他は平坦なコースであり、10区間の中でも走りやすい区間とも言われています。しかし、近年は復路の2区とも言われており、いい流れを作るために強力な選手が起用されることも増えてきました。また、序盤は寒く、距離を追うにつれて気温が上がってくるため全区間で最も寒暖差が激しい区間となっています。
7区を走ることが多い選手は以下のとおりです。
①故障明けのエース
→負担の大きい前半区間に出走できるほど万全ではなくても、比較的自分のペースを守れる7区なら走れるという選手はよくいます。前回は明治大のエース、阿部がこの7区に登場しました。なお、故障明けとは思えないくらい快調な走りで区間記録を更新。明治大の躍進をさらに後押ししました。
②将来のエース
トラックシーズンで好タイムを出しながらも、上級生の層が厚く、1区や3区の席が空いてないため、7区に起用されることはよくあります。前回でいえば松崎(東海大2年)や鈴木(早稲田大2年)がこの枠に該当します。
7区は比較的走りやすい区間だからこそ、ここにどんな選手を置けるかが勝負になってきます。優勝を狙うようなチームはもちろん強い選手が登場してきます。
そんな7区の見どころは「高速の単独走」です。
7区は比較的単独走になることが多い区間です。普段は人と競り合うことの多いスピードランナーが遠く離れた背中を追いかけて、独り高速ペースを刻み続けるレースはとても緊張感があります。
~8区~
コース:平塚中継所→戸塚中継所
距離:21.4km
前半はフラットで走りやすいですが、後半に遊行寺の坂と呼ばれる難所が待ち受けており、つなぎ区間の中でもスピードよりもタフさに自信を持つ選手が輝く区間です。
8区を走ることが多い選手は以下のとおりです。
①山上り予備軍
8区は上りが得意な選手が起用される区間です。遊行寺の坂をスイスイ走れる選手は翌年以降5区にコンバートされることが多いです。
②ルーキー
これまで、ルーキーが走る区間といえば比較的走りやすい7区が中心でしたが、7区の重要度が高まるにつれて、ルーキーが走りづらい区間へとなりつつあります。そのあおりを受けて8区にルーキーが起用されることが増えてきました。前回は櫛田(明治大)、前田(東洋大)、佐々木(拓殖大)、西澤(順天堂大)、中園(法政大)、若山(日大)、清水悠(国士舘大)と実に7選手が起用されています。
③三大駅伝初出場の上級生
じっくり力をつけて10人のメンバーに食い込んできた選手が出走するのに適した区間です。駒澤大や順天堂大は特にその傾向が強いように感じます。
チーム内8~10番手の選手が走ることの多い8区ですが、東海大は2年連続でこの区間では別格の小松を起用していました。もちろん他に主要区間を安心して任せられる選手が揃っているのが前提にはなりますが、エース格をつなぎ区間に持ってくることで大きなアドバンテージを狙う戦略は非常に魅力的です。
8区の見どころは「普段目立たない選手の奮闘」です。4区と被る部分もありますが、8区を走る選手は悪い言い方をすると“派手な活躍をしない選手”です。全区間で最も目立たないかもしれません。箱根駅伝で初めてその名を知ることになる選手も多いと思います。ただそんな選手たちにこそ、ドラマがあるのです。山の神への挑戦権を得られなかった選手、4年間かけてなんとか箱根の舞台を掴んだ選手、テレビに取り上げられることのない選手が様々な思いをぶつけてしのぎを削る区間。それが8区です。
そして前回は前年に4区でブレーキを起こし、優勝を逃す一因となった岩見(青山学院大4年)がこの区間に登場。前年MVPの小松(東海大)の追い上げから見事逃げ切って、優勝へ向けて流れを完全に引き寄せる大リベンジを果たしました。
~9区~
コース:戸塚中継所→鶴見中継所
距離:23.1km
復路のエース区間と呼ばれる区間です。一時期9区に襷が渡った時点では既に大差がついているレースが続いていましたが、ここ2大会は9区で勝負が決まったと言っても過言ではありません。コースは2区の裏返しとなっており、序盤は下り坂が続き、後半は平坦な道を走ることとなります。コース的には走りやすいですが、2区と並ぶ最長区間となっており、前半から無鉄砲に突っ込むと後半見事に失速することになってしまいます。
9区を走ることが多い選手は以下のとおりです。
①典型的なスタミナランナー
この区間は自分のペースを刻める選手が向いており、1km3分前後で淡々と走り続けられる選手が輝く区間です。特に帝京大にはこの区間に適性のある選手が数えられないほどいて、毎年のように区間上位を奪っています。
②10区経験者
あとで説明しますが、10区も距離が長く、スタミナランナーが集う区間です。10区で経験を積んだ選手が翌年に復路のエースとして9区に登場することはよくあることです。前回は相沢(東京国際大)、大澤(東洋大)が10区を走った経験を活かして9区で好走しました。
9区の見どころは3点あります。
1点目は「大詰めの優勝争い」です。
ここ2大会、優勝争いは9区で首位のチームが後続に大差をつける形で決着させています。前々回は湊谷(東海大)、前々回は神林(青山学院大)がその立役者。ここまで決して順風満帆とはいかなかった選手たちがチームを勝利に導く姿は鳥肌が立つほどカッコいいです。
2点目は「復路のエース達の熱い競り合い」です。
特にシード権争いの最前線で見られる戦いが最も熱いです。以前の記事でも紹介したように、シード権を獲得するのとしないのとでは天と地ほどの差があります。そして9区を走る選手は復路のエースとしてチームを背負っている選手です。彼らは少しでも10区の選手が走りやすくなるように、1秒を削り出し続けています。
3点目は「繰り上げをかけた攻防」です。
選手VS選手だけでなく、選手VS時間の戦いも注目です。復路は先頭が中継所を通過してから20分後に襷を繋げなかったチームは強制的に繰り上げスタートとなります。そして9区が最も繰り上げスタートが起きやすい区間となっています。9人の汗が染みこんだ襷が最後のランナーに繋げないと本当に悔しい気持ちになります。下位に沈んでいるチームで9区を走っている選手は繰り上げラインという見えない敵と戦っています。シード権争いよりもっと後方で起きている、チームが繋いできた想いを守るための戦いにも注目してみてください。
~10区~
コース:鶴見中継所→大手町読売新聞社前
距離:23.0km
箱根駅伝を締めくくる区間です。それまでどんな好位置で戦いを続けていても、10区を走る選手が失速したらチームの目標は潰れてしまう、そんなプレッシャーのかかる区間です。コースとしては比較的平坦で走りやすいですが、距離が23.0kmと長く、また暑さも邪魔をしてくるため、ハイスピードで走ることは難しい区間となっています。
10区を走ることが多いのは以下の選手です。
①箱根初出場の最上級生
10区は4年間かけてじっくり力をつけてきた4年生が輝く舞台です。彼らはスピードには自信がなくとも、スタミナには自信をもっています。そして彼らは地道な努力を続けてきたことだけあって、順位争いの場面で最後の粘りが効きます。前回で言うと吉野(帝京大)がこのパターンでの出場となりました。吉野は最初から力の限りに突っ込んで國學院大、東京国際大、明治大との3位争いに殴り込み、最後は総合4位を勝ち取る素晴らしい走りで最初で最後の箱根路を飾りました。
②不調のエース
7区も走れないほど深刻な不調となっているエースは10区に起用されます。そこまでして無理に起用しなくてもいいとの声もありますが、やはりチームを支えてきたエースが最後に控えていること、そのエースが手負いの状態であることから楽をさせてあげようと9区までの選手が奮起して「エースに頼らない駅伝」ができるという利点もあります。過去には鎧坂(明治大)や出岐(青山学院大)といった学生長距離界を代表するエース達が故障や不調の影響で10区を走りました。
10区の見どころは「取り返しのつかない戦いに挑む選手の姿」です。アンカーというのはそういうものです。10区だけは失敗した場合にカバーしてくれる後続の選手がいません。特に優勝争い、シード権争いをしている場合には物凄い重圧がかかるでしょう。そんな中でチームの目標達成に向けて必死に走る選手の姿をぜひ目に焼き付けてください。
そんなに細かすぎない箱根駅伝ガイド区間紹介編、いかがだったでしょうか。
箱根駅伝のチームエントリーも昨日発表されたので、次回からは各チームの区間オーダー考察を行っていきます。
お楽しみに!
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